「最近、体力が落ちてきた」
「以前より疲れやすくなった」
「運動しないといけないとは思うけれど、何のために運動するのか分からない」
40代、50代、60代になると、こうした身体の変化を感じる方は少なくありません。
しかし、運動の価値は「筋肉をつける」「体重を減らす」「見た目を変える」だけではありません。
近年の研究では、運動が身体の中にある「細胞の老化」にも関係していることが分かってきました。
東京都健康長寿医療センターの研究では、運動によって筋肉から分泌される物質が、全身の細胞老化を抑制する可能性が示されています。
今回は、この研究をもとに、「なぜ運動が身体の老化を抑える可能性があるのか」を、できるだけ分かりやすく解説します。
「老化する」のは、身体全体だけではない
私たちは一般的に「年齢を重ねると身体が老化する」と考えます。
ところが、生物学的に見ると、老化はもっと小さな単位から始まっています。
それが「細胞」です。
私たちの身体は、数多くの細胞によって構成されています。細胞は日々、ダメージを受けたり、修復されたり、新しく入れ替わったりしながら身体の機能を維持しています。
ところが、加齢やさまざまなストレスによって、正常な状態から外れてしまう細胞が増えていきます。
その一つが「細胞老化」です。
細胞老化とは、簡単に言えば、ダメージなどを受けた細胞が恒久的に増殖を停止した状態です。
一見すると「細胞が増えなくなるだけ」に思えるかもしれません。
しかし、問題はそこからです。
老化した細胞は、SASP(senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる状態を示し、さまざまな生理活性物質を分泌します。
その結果、周囲の細胞や組織にも影響を与え、組織の老化や慢性疾患に関係する可能性が指摘されています。
図解:細胞老化は「その細胞だけの問題」ではない

つまり、老化を考えるときには「筋肉が落ちた」「身体が硬くなった」という目に見える変化だけではなく、その背景にある細胞レベルの変化にも目を向ける必要があります。
では、運動すると何が起こるのか?
ここからが今回の研究の興味深いところです。
これまでにも、運動習慣のある人では、運動をしていない人と比較して、細胞老化に関連するマーカーが低い傾向を示す研究が報告されていました。
さらに、実験動物を用いた研究でも、運動によって細胞老化関連の指標が減少することが報告されています。
つまり、
「運動する」
↓
「細胞老化が抑えられる可能性がある」
という関係が少しずつ見えてきたわけです。
しかし、研究者にとっては一つの大きな疑問が残ります。
「なぜ運動すると細胞老化が抑えられるのか?」
そのメカニズムを明らかにしようとしたのが、東京都健康長寿医療センターの研究です。
鍵を握っていたのは「筋肉から分泌される物質」
研究チームは、運動によって筋肉から分泌される物質に注目しました。
筋肉は、単純に身体を動かすための「エンジン」ではありません。
運動すると筋肉からさまざまな生理活性物質が分泌され、それらが血液などを介して全身に影響を与えることが知られています。
このような筋肉由来の物質は「マイオカイン」と呼ばれます。
研究チームは、細胞老化を抑制する働きを持つ因子を探索。
その結果、候補となる因子を特定し、マウスを使った実験で検証しました。
その後、2024年に発表された研究で、この因子が「PEDF(色素上皮由来因子)」であることが明らかにされました。
図解:運動と全身の細胞をつなぐ「筋肉」

ここで重要なのは、
「筋肉を動かすこと」が、筋肉だけの問題ではない
ということです。
筋肉は、運動によって全身に情報を発信する「内分泌器官」のような役割も担っていると考えられています。
マウスの実験では、何が分かったのか?
研究では、運動を行ったマウスにおいて、筋組織でPEDFの発現が上昇し、血液中のPEDFも増加することが確認されました。
さらに、PEDFをマウスに投与すると、肺や脂肪組織など複数の末梢組織で細胞老化の抑制が確認されました。
つまり、
「運動」
↓
「筋肉でPEDFが増える」
↓
「血中PEDFが増える」
↓
「複数の組織の細胞老化を抑える」
という仕組みの一部が示されたことになります。
さらに研究では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な病態の一つである肺気腫のマウスモデルにPEDFを投与したところ、肺組織の老化細胞の減少とともに、呼吸機能低下が抑えられる結果が得られました。
ただし、ここは非常に重要です。
これは「人間にPEDFを投与すればCOPDが治る」という意味ではありません。
あくまで動物モデルによる研究です。
研究チーム自身も、運動による細胞老化制御については、どのような運動の種類・強度が、どの組織にどの程度影響するのかなど、まだ明らかになっていない点が多いとしています。
「運動=若返り」と単純に考えないことが大切
ここで、Nexfit for Personalとして特にお伝えしたいことがあります。
このような研究を見ると、
「運動すれば細胞が若返る」
「この運動をすれば老化を止められる」
と受け取りたくなるかもしれません。
しかし、科学的にはそこまで単純ではありません。
実際、運動と細胞老化の関係を調べた2021年のシステマティックレビューでは、運動によって細胞老化関連マーカーが低下する可能性が示される一方、人と動物、測定するマーカー、対象となる組織、健康状態などによって結果に違いがあり、さらなる研究が必要だとされています。
また、2026年に発表された高齢者を対象とするランダム化比較試験のメタ解析では、SASP関連サイトカインについて、運動群と対照群との間に明確な統計学的差が確認されなかったと報告されています。
つまり、現在の科学から言えるのは、
「運動は細胞老化や加齢関連の変化に影響する可能性があり、そのメカニズムも徐々に解明されている」
というところまでです。
「どんな運動でも老化を止められる」という話ではありません。
40代から大切なのは「鍛える」だけではなく「機能を保つ」こと
では、私たちはこの研究を日常生活にどう活かせばいいのでしょうか。
一つの答えは、「運動を特別なイベントにしないこと」です。
若い頃は、
「筋肉を増やしたい」
「もっと速く走りたい」
「もっと重い重量を持ちたい」
という目的でも十分でしょう。
しかし、40代、50代、60代と年齢を重ねていくと、運動の目的は少しずつ変わってきます。
重要になるのは、
「今の身体を、これから10年、20年使える状態にしておくこと」
です。
歩く。
しゃがむ。
階段を上る。
腕を上げる。
身体をひねる。
片脚で立つ。
重いものを持つ。
こうした日常動作を無理なく続けられる身体を維持することこそ、人生後半戦における「身体づくり」の本質ではないでしょうか。
身体再生という考え方
Nexfit for Personalでは、40代以降の身体づくりを、単純な「筋トレ」や「ボディメイク」だけでは捉えていません。
大切なのは、
「筋力」
「可動性」
「姿勢」
「身体の使い方」
「コンディショニング」
「運動習慣」
を、それぞれ独立したものとして考えるのではなく、一つの身体システムとして整えていくことです。
筋肉を鍛える。
身体を動かす。
動きやすい状態をつくる。
そして、無理なく継続できる運動習慣をつくる。
その積み重ねが、結果として「これからも動ける身体」をつくっていきます。
「老化しない身体」ではなく、「老化しても動ける身体」へ
年齢を重ねることそのものを止めることはできません。
細胞老化についても、現時点では「運動によって完全に止められる」と証明されたわけではありません。
だからこそ、目指すべきなのは「若返ること」だけではないとNexfit for Personalは考えます。
大切なのは、
「年齢を重ねても、自分の身体を自分で動かせること」
「やりたいことを、身体を理由に諦めなくていいこと」
「仕事も、旅行も、趣味も、人との時間も、これから先も楽しめること」。
そのために、身体を適切に動かし、身体の機能を維持・改善していく。
今回紹介した研究は、そんな「運動する意味」を、細胞レベルから考えるきっかけを与えてくれます。
運動は、単に筋肉を鍛えるためだけのものではありません。
私たちの身体そのものが持つ、さまざまな生理的な仕組みに働きかける可能性があります。
だからこそ、40代からの身体づくりでは、
「何を鍛えるか」
だけではなく、
「どう動くか」
「どう整えるか」
「どうすれば10年後も動けるか」
まで考えることが重要です。
Nexfit for Personalが目指しているのは、短期的な身体の変化だけではありません。
これからの人生を、自分の身体で楽しみ続けるための身体づくり。
それが、私たちが考える「身体再生」です。
参考・出典
東京都健康長寿医療センター「運動による抗細胞老化効果のメカニズム解明」(2023年12月5日)
東京都健康長寿医療センター|研究トピックス
東京都健康長寿医療センター「運動が、慢性疾患を増悪化する細胞老化を抑制するメカニズムを解明」(2024年7月18日)
東京都健康長寿医療センター|プレスリリース
Chen XK, et al. “Is exercise a senolytic medicine? A systematic review.” Aging Cell. 2021.
PubMed|Is exercise a senolytic medicine?
Petersen AMW, et al. “Exercise reduces circulating biomarkers of cellular senescence in humans.” Aging Cell. 2021.
PubMed|Exercise reduces circulating biomarkers of cellular senescence in humans
※本記事は研究内容を一般向けに分かりやすく紹介することを目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的とした医学的助言ではありません。また、動物実験の結果をそのまま人間に適用できることを意味するものではありません。
